平成29年7月16日(日)、岐阜市立中央図書館がメディアコスモスに開館して2年が経つことを記念して、「2周年記念イベント 子どもの宇宙とファンタジー」が開催されました。子どもの本をテーマにしたトークショーで、ゲストは童話作家の角野栄子さんとチルドレンズ・ミュージアムのプロデュースに携わっておられる目黒実さん、それから角野栄子さんの最新作「いろはにほほほ」の出版社アリエスブックスの山下麻里さんです。角野栄子さんは言わずと知れたジブリ映画「魔女の宅急便」の原作者で、目黒さんは「くまの学校」や「リサとガスパール」など子どもたちに長く愛されてきたキャラクターのプロデュースもつとめてこられました。長年、子どもに夢を与える活動をされてきたおふたりです。
イベントが始まる前、実は子ども司書たちが角野さんと目黒さんのお二人へのインタビューを行っていました。1か月前からインタビューに向けてゲストのお二人のことを調べたり、質問したいことを考え、本番に備えました。「お二人の夢はなんですか?」「勉強は好きですか?」「大人になっても子どものような発想が出るのはどうして?」お二人は子ども司書たちの質問を真正面から受け止め、彼らに語りかけてくださいました。"「子どものような」ではなくて、子どもなのよ!私は82歳だけど、18歳のように生きているし、私が喜ぶ物語を私のために書いているの"。"人はだれでも心の中に老若男女、そして子どもを持っているんだ"。子ども司書に対して子ども向けのおはなしではなく、一人の人間同士として語ってくださった言葉を一人ひとり、しっかりと受け止めたようでした。人生の大先輩でもあるお二人の言葉の数々は、きっとこれからの彼らの歩みの中で大きな力となると思います。
「司書として大事なことはなんだとおもう?」おふたりからの突然の逆インタビュー!予想外の展開にとまどいながらも一人ずつ、しっかり自分の言葉で答えていて頼もしく思いました。目黒さんは子どもたちに、家でも学校でもない、第3の居場所としてチルドレンズ・ミュージアムを作られたそうです。そして、子ども司書たちに、「きみたちには子ども司書という第3の居場所(サード・プレイス)があるんだね」とも言ってくださいました。
インタビューの報告は子ども司書によるラジオ番組「小さな司書のラジオ局」で彼ら自身が自分の言葉で行います。放送は8月3日14:29~FMわっちにて。ぜひお聞きください!
みんなのホールで行われたイベントではまず角野さんが「魔女の宅急便」の冒頭部分を朗読で聞かせてくださいました。宮崎駿氏によりアニメ化されたことでたくさんの人に愛されてきた作品ですが、実は映画化されたのは作品のほんの一部。「魔女の宅急便」は主人公のキキが大人になるまでを描いた全6巻の長編なのです。
キキは魔女だけど、使える魔法はたったひとつ、空を飛ぶことだけ。「ひとつしかできないキキ」だからこそ私たちは万能ではないキキに自分を重ね、勇気づけられるのだと思います。「なんでも魔法のように解決できる物語なんて嘘くさくって大嫌い。使える魔法が一つしかないからこそ、知恵や工夫が生まれるし、想像力を得て、そこから世界が広がっていく。」そして、「私たちはだれでも一つは必ず魔法を持っているの。」
目黒さんと角野さんのこのお話はイベントから少し時間が経った今も、とても心に残っていて、ときどき思い出しては自分の中でかみしめています。
本の表紙を開いて、最初のページを、「扉」というそうです。本の扉を開くと、そこから物語が始まります。そのことから、おふたりは物語を「家出」に例えてお話しくださいました。物語を読むことは、家出。新しい世界を求めて、扉を開けて家を飛び出し一人歩き出します。そこにどんな景色が広がっているのか、自分の足で進まなければ(ペ―ジを
めくり、先を読み進めなければ)わかりません。そして、たくさんの経験をしてやがて家に帰る。終わりの扉から家に帰るとき、つまりは物語を読み終わるとき、新しい自分に出会えるかもしれません。主人公とともに冒険し、ドキドキわくわく胸を躍らせ、時には危険にさらされながら帰ってきて開く終わりの扉。それはきっと新たな自分に気づき、また歩き始める自分にとって「はじまりの扉」なのです。
また、子どもが1年生になったら、ランドセルをプレゼントする、というのはよく聞く話です。しかし、「本棚をプレゼントするのはどうかしら」というのがお二人の提案。
本棚をプレゼントして、子どもはその本棚にお気に入りの本を入れ、年を重ねていく。そして、その子が大人になって愛する人ができたとき、大切な何十冊かの本が入った本棚を持って引っ越し、新たな暮らしを始め、家庭を築いていくのです。「とってもロマンチックだと思いませんか?」とお話される角野さんはとてもかわいらしく、会場の雰囲気もふんわりとあたたかいものになりました
私も、幼いころから大切にしてきた本が入った本棚を持って新しい場所で暮らしはじめたことのある大人の一人なので、お二人の語られる言葉に自分を重ねていました。同じようにお二人の言葉に自分を重ねる方も少なくないのではないでしょうか。
たった一つしかないけれども、だれでもひとつ、必ず持っている魔法。私はどんな魔法を持っているのだろう?
2周年という節目の日に、たくさんの素敵な言葉をいただき、3年目への一歩を力強く踏み出せるような気がしました。