読書の秋、この図書館では毎週のようにイベントが開催されています。11月4日に開催されたのは朝の連続テレビ小説「わろてんか」にも出演されている女優の竹下景子さんをゲストにお招きしたトークイベント、「図書館は本と人とまちをつなぐ」。
イベントはまず、市民サークル「楽しい群読 ほっこり」のみなさんによる群読から始まりました。群読の一部には竹下景子さんも参加され、情感のこもった朗読で詩の世界に観客を誘ってくれました。群読とは、一つの作品を二人以上で読み、作品の内容に合わせて一人、グループ、全体と声を組み合わせて表現する朗読の手法です。この日は「とうげじろう少年詩集 淡雪」と「コボたち詩集3」より10篇の詩を朗読してくださいました。とうげ・じろう少年詩集 『淡雪』は1981年に発行された教育者 川口半平氏による詩集です。「とうげ・じろう」は川口氏のペンネームであり、岐阜児童文学研究会による文学読本『コボたち』に詩を連載されていました。『コボたち詩集』は1975年にはじまった「コボたち詩コンクール」の入賞作品をまとめた作品集です。 ほっこりのみなさんの高い声、低い声、弾んだ声、沈んだ声、優しい声。そして竹下さんの朗々とした声。声と声が重なってイメージが広がり、時に力強く、優しく心に響き、まるで短いお芝居を見ているような気持ちになりました。
続いては、竹下さんとチェリストの北村多佳子さんの演奏とのコラボレーションによる「Red あかくてあおいクレヨンのはなし」の朗読です。 この絵本は、じぶんのいろをさがすクレヨンの物語です。Redは赤く塗るのが苦手。赤いクレヨンのはずなのにどうしても赤が描けないのは、練習が足りないから?怠けているから?子ども向けの絵本ですが、悩みながら本当の自分を探すRedの姿が描かれたテーマはとても今日的で、考えさせられます。 ――「これからするのは、あかくてあおいクレヨンのはなしです。あなたのためにかきました。」最初の一言から、ぐっと竹下さんの朗読の世界に引き込まれ、Redと一緒に悩み、悲しみ、そして自分の色を見つけた喜びを味わった気がした時間でした。 竹下さんはこの絵本を、初めて読んだとき、Redが自分の色に気づくまでの「心の旅」の様子がまっすぐに心に刺さり、号泣してしまったそうです。思い入れのある絵本を読む竹下さんの声が北村さんのチェロの優しい音色に乗って会場に響き、聞き入りました。当日は絵本の翻訳をされた上田勢子さんもカリフォルニアからお越しくださっていました。
朗読を楽しんだ後は細江岐阜市長と竹下さんとのトークセッション「図書館がひらく、本とひと、そしてまちの新たなつながり」が行われ、岐阜市立図書館の印象や図書館という場所について、本について、そして朗読や群読などの表現についての竹下さんの思いなども語られました。 文化の拠点、絆の拠点、そして知の拠点が一つになった複合性をもつこのぎふメディアコスモスについても大変興味を持ってくださいました。イベント前に館内を見学され、明るく、柱がなくて開放的な図書館をとても気に入っていただけたようで、イベント後にも再び館内を見学されていて、とてもうれしく思いました。
また、昔からご自身のお子さんへの読み聞かせをされていたり、阪神大震災以降、復興支援として朗読会を毎年されていたりと図書館や本はいつも竹下さんにとってとても身近な存在だったそうです。震災以降ライフワークとして続けてこられたこの朗読会は年に1回、「今年もここへ来ることができた」と自分を振り返る大切な場所であり、また、本を通した人と人とのつながりも感じられる大切な活動だと語ってくださいました。「ほっこり」のみなさんとの共演も、声の重なりでその都度新しいものが生まれるお芝居に近いものがあって楽しかったそうです。
朗読のコツってあるのでしょうか?という質問に対しては「自分の読みたい読み方で、出したい声で読めばよいのです」、と竹下さん。読んでいると役がふくらみ、動き出したくなる、そんなワクワクした気持ちで楽しんでという言葉のとおり、竹下さん自身が今回のイベントを楽しんでいらっしゃる様子が印象的でした。
今回のイベントは群読、チェロの演奏に載せた朗読など、一人で本を読むのとは違う、読書の形が体感できるイベントになりました。たくさんの人と一緒に『味わう』読書も素敵ですね。