未来の担い手を育てる -ぼくのわたしのショートショート発表会-

  • 2017年11月 6日

 10月28日(土)、「桐島、部活やめるってよ」や「何者」の作者として著名な朝井リョウさんをお招きして『目指せ直木賞作家!ぼくのわたしのショートショート発表会』を開催しました。応募作品から事前に朝井リョウさんが選ばれた8作品を、作者の中高生が自身の朗読で発表、朝井さんから1人ずつ講評をいただきます。発表してくれた8人は自分の作品を舞台で朗読するという慣れない経験に緊張したと思いますが、どの作品も個性的で、朗読を聞いているとその世界にぐっとひきこまれました。ショートショート1_s.jpg

 「作品の中に自分を出さないって難しいのに淡々とした文章が書けていて読み手に不安感を与えることに成功してるよね」
「文章に緩急があって言葉選びのバランス感覚に長けてる。」
「主人公がちょうどよいかわいらしさで応援したくなるね」
「人によってはスルーしてしまうようなひとことを拾い上げて小説にできるというのはすばらしい個性だと思う」

 朝井さんは、丁寧に彼らの話を聞き、作品の感想を述べてくださいます。
また、「~た。~た。と同じような文体が続かないように工夫している」と話した子には「わかるー!でも難しいよね」と共感したり、特徴的なキャラクターが登場した物語を書いた子には「場面を動かしてくれるキャラクターって重要だよね」とうなずいたりと、立場は違っても同じ「書き手」として彼らに共感したり言葉をかけたりしてくださっているんだなあと感じました。 朝井さんが同じ作家の石田衣良さんから言われた、"「ただ歩いている」というシーンを「歩いている」と書かずに描けるかどうかが作家にとって重要なことなんだ"、という言葉も未来の直木賞作家になるかもしれない彼らへ紹介してくださいました。


朝井さんの言葉を借りると、「書くことは勇気」なのだそうです。自分の経験していないことや,直接は知らないことを書くということは、「間違っているかもしれない」という恐れを伴います。そこを乗り越えてつづる言葉だからこそ、読む者の感情を揺さぶるのだなと感じました。

今年は人口知能をテーマにした作品など、現代社会を映したような作品が多く集まりました。近年、将来的には人工知能が取って代わる職業がたくさんあるのだとも言われていますが、しかし、「文章というのは最後は経験が埋めるもの」だと朝井さんはおっしゃいます。 たとえば果物のリンゴとリンゴ・スターという名前の人物を並列した文章を示したとき、AIは関連性のない言葉だと「×」をつけます。しかし、私たちはその先に何かのつながりがあることを想像することができるため、必ずしも「×」とはならないのです。
中高生を見守る暖かい空気の中、このように深く考え、ハッとさせられるような気づきもあった時間でした。 発表会終了後、8人の中高生は一人ずつ朝井さんの著作「風とともにゆとりぬ」にサインをいただき、それぞれ言葉を交わしながら手渡しで受け取りました。発表中は緊張感のあった彼らも大舞台での発表を終え、ほっとした様子で笑顔も見られました。

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 「未来の担い手」を育てたいという思いを込めたこのイベントも3年目を迎えました。昨年も選ばれて2回目の舞台だという子。昨年も応募したけれど選ばれず悔しい思いで観客として昨年のイベントに参加、その時のアンケートに「来年は必ず選ばれる作品を書いて見せます!」と決意表明をして帰ったのだと舞台上で打ち明けてくれた子。人前で話をするのは得意ではないけれども勇気を出して一歩踏み出し当日を迎えた子。応募したけれど選ばれず、質疑応答の時間に「美しい文章を書くには?」「どうやって物事を表現する言葉を選ぶんですか?」と質問、一生懸命何かを自分のものにしようとしていた子。3年続けてきたこのイベント、舞台に上がった子も上がることができなかった子も、それぞれに歴史をはぐくみ、思いを育ててこの日を迎えていました。図書館としても「毎年続けていくこと」の意味について考えさせられます。

 「言葉は人生のあらゆる場面で自分を助けてくれるもの。自分の「その時」のため、ゴールをどこに置くとしてもずっと書き続けてほしい」という朝井さんからのメッセージもありました。
そして、図書館も未来の担い手による生き生きとした言葉が行き交う空間であり続けたいという館長の最後のあいさつで幕は閉じられました。  ご来場の皆さま、ありがとうございました!