新年間もない1月6日(土)に「作家と語ろうin岐阜」を開催しました。
普段岐阜でなかなか会えない作家や小説家の方を招いて、本や本棚のこと、創作活動の中で影響を受けたものなどを語ってもらうことを目的に、今年度から始めたイベントです。 今回は小説家の木村紅美(くみ)さんをお招きして、いろいろお話いただきました。
木村さんは昨年、文芸誌『群像』の9月号に掲載された「雪子さんの足音」で第158回芥川賞にノミネートされるなど、注目の小説家の一人。 宮沢賢治、そして賢治が暮らした岩手の風土から影響を受けたもの、さらに木村さんの暮らし方にそれらがどのような影響を及ぼしたか、を中心に話が進みました。
続いて、木村さんがイベントのために持ってきてくれた本を3冊(佐藤泰志『海炭市叙景』、チェーホフ『かわいい女・犬を連れた奥さん』、『ちくま日本文学全集 尾崎翠』)紹介してくれました。あらすじの紹介も含め、どれも読み込んでいるのがすごく伝わってきます。
本の紹介のあと、木村さんが小説家になるまでの経緯などに話が移りました。 木村さんが小説家を目指し始めたのはなんと小学2年生の頃! 中学時代は安部公房、高校時代は新井素子、20代はドストエフスキーを読んでいたほか、『少年ジャンプ』やつげ義春などの漫画、映画、喫茶店にもハマっていた木村さん。 その後、5年のOL経験、ヴィレッジバンガードや三省堂書店でのアルバイト経験を経て、今に至るそうです。
その後、木村さんの作品でイベントに関わりのある短篇集『イギリス海岸』の話になりました。
「イギリス海岸」は北上川の西岸にある場所で、その地層の様子から宮沢賢治が命名しました。「福田パン」「イギリス海岸」
「中庭」「ソフトクリーム日和」「帰郷」「クリスマスの音楽会」の6つの話からなるこの作品には、イーハトーヴ、岩手の話が
詰め込まれています。あんバターのコッペパンなどが有名な福田パン、宮沢賢治好きなタクシーの運転手、『注文の多い料理店』の
出版所があった光原社、小岩井農場の双子のサイロ、盛岡のじゃじゃ麺、宮古の浄土ヶ浜...どれも読んでいると情景が浮かんでくる話ばかりで、参加者の中で岩手に行かれたことある方々も、木村さんの話に頷いていました。
東日本大震災が起きた頃の話にも及んだ12年間の創作活動の苦労話では、文芸誌のジャンルや芥川賞の裏話なども出てきました。
その芥川賞にノミネートされた「雪子さんの足音」の話になりました。この作品は2015年に起きた、東京大空襲を生き抜いた三姉妹の老女が熱中症で亡くなった事件から構想を得たそうです。
小説の構想を練るのに大学ノートを使用する木村さんは、この小説を書くために13冊も費やしたそうで、木村さんの大事なモノとして、今回その一部を持ってきてくれました。
さらに図書館内で自分が読みたい本を次々と選び、それらの本も紹介してくれました。
(木村さんが紹介してくれた本は、図書館入口脇の特集コーナーで展示しています)
最後に小説家を目指す若い人たちへのメッセージとして、ちょっと考えて挙げたのが「たくさん読むこと」と
「いろんな経験を積むこと」。小説家になる前に経験してきたことはこれまでの作品にも反映されていて、
無駄だったものはなかった、と強調されていました。
なかなか垣間見ることができない小説家の話を聞くことができる、またと無い機会になったこのイベント。芥川賞にノミネートされていた最新作の「雪子さんの足音」は2月に単行本として出版される予定なので、是非手に取ってみてください。
次回vol.2は、2月4日(日)に宮沢賢治の弟清六氏のお孫さんにあたる林風舎代表取締役の宮沢和樹氏をお招きしてお話いただきます!