10月27日(土)、「桐島、部活やめるってよ」や「何者」の作者として著名な岐阜県出身の作家、朝井リョウさんをお招きして『目指せ直木賞作家!ぼくのわたしのショートショート発表会』を開催しました。第4回目となる今年は過去最多の114作品が集まりました。動画の作成など、世相や流行を反映したものからストレートな恋愛もの、背筋の凍るホラーまで幅広く意欲作が集まり、朝井さんは選考に大変苦労したそうです。その応募作品から事前に朝井リョウさんが選ばれた8作品を、作者の中高生が自身の朗読で発表し、朝井さんから1人ずつ講評をいただきます。
朗読が始まると、ぐっと会場の空気が引き締まり、観客は物語の世界に引き込まれます。朗読が終わると朝井さんは中高生と直接言葉を交わし、作品1つ1つにコメントしていきます。朝井さんから「落ち着いた文体だね!若い時って僕もそうだったけどとにかく飾りたくなって余計な言葉をたくさんつけてしまって、というものなのに」とか「単語一つ一つで間接的に、'この家には何かあるぞ'と思わせるあやしさ、情景がうかぶ語彙力がすごい!」など、書き手ならではのコメントに中高生も作品の着想を得たきっかけや普段自分が作品を書くときの気持ちなどを生き生きとこたえていました。
また、ある子が作中で書いていた、「結構本気で好きだった」という文章で、ただ「好きだった」と書くより、「結構」という一言があることで一気にリアルさが増すね!など細かいところにまで注目したり、他県からの参加者の作品には「岐阜ではこの言葉は出てこない!」など、郷土作家だからこその言葉もあり、会場からは朝井さんのコメントにたびたび歓声が起こりました。
日常の中の小さな心の動きや生活の中の小さな変化は気づこうと思って気づくことのできるものではなく、また、気づいたとしても受け流してしまった方がずっと楽で大半の人はそうしてしまうものです。
文章力はいわば筋トレのようなもので、トレーニング次第だけれど、作家になるには、気づきの「視点」があるかどうかが重要です。「それ」に気づき、そして言葉に表す力は特別な「ギフト」のようなものだと朝井さんはおっしゃいます。書くことを選んだ彼らは、朝井さんのいう「ギフト」を受け取った8人なのではないでしょうか。
「自分の書いたものを受け取ってくれる人の存在を視覚的に確認できるのは、書き手にとって大きな勇気、'エンジン'になる。これからもここで中高生の力を見守ってほしい」と最後に、中高生の朗読を見守った観客へ、朝井さんからメッセージもありました。
控室に戻った後、館長と出演した8人の中高生で振り返りをしました。「もっといろんな作品を書きたい」「自分の概念が壊された気がする。すごくいい刺激をもらえた」「好きで書いていたけれど、これからも小説を書き続けていいんだよと言ってもらえた気分」などそれぞれ自分の言葉で今の想いを語りました。みんな本番が終わって、朝井さんから言葉をもらい、ほっとほころんだ表情の中にも「書く」ことへの彼らなりの決意が垣間見えた一瞬でした。館長からも「うまくある必要はない。それぞれの世界観をぶつけあい、そして朝井さんもそれに同じ立場で向き合ってくださった。とてもすがすがしい時間だった」とエールを送りました。朝井さんと自分の書いた作品について語り合う、という経験が、今後彼らが前に進んでいくエンジンとなることを願っています。