10月3日(月)、第2回 おとなの夜学を開催しました。昨年からスタートしたこのイベントは、私たちの暮らす岐阜のまちがこれまで育んできた文化や歴史を図書館から発信しよう、というものです。岐阜ならではの異色な人々が集まり、「岐阜にいながら知らなかった岐阜のこと」を、対談やパネルディスカッション形式で語ります。
今回のテーマは、「川が繋いだ手仕事の物語‐岐阜の伝統工芸・後編 和傘、鵜籠、川舟‐」。8月に開催された第1回おとなの夜学の美濃和紙と岐阜提灯のお話に引き続き、岐阜の伝統工芸にスポットを当てたお話を伺いました。会場は図書館内のリーディング・カフェ。今回のテーマである、色とりどりの和傘が会場にたくさん飾られ、美濃和紙の提灯の明かりがともった素敵な雰囲気の中、お話が始まりました。
今回対談をするのは岐阜県立森林文化アカデミー准教授の久津輪雅さんと、和傘職人の高橋美紀さん。進行は今回もこのイベントの企画・プロデュースを行っているNPO法人ORGANの蒲さんです。
まずは、蒲さんから「岐阜の伝統産業の背景に長良川がある。」ということで、美濃から尾張をつなぐ大動脈、長良川の水運の歴史や、それから今回のテーマである「和傘」と岐阜、長良川の関係についてのお話がありました。
長良川流域では筏を使って材木や各地で生産された商品の輸送が行われ、川湊が発展していきました。今回のテーマである「和傘」も長良川とは深い関係があります。その材料である竹や美濃和紙、エゴノキなどはすべて、水運によって運ばれてきたのです。和傘の製作に欠かせない材料が長良川の水運によって豊富にもたらされたことにより、やがて全国生産のうち9割を岐阜が占めるまでになったとのこと。美しいだけの長良川だけでなく、昔から生活や産業、文化と深くかかわって岐阜の発展に寄与してきた長良川の新たな一面を知ったような気がしました。
長良川を通じて岐阜で育まれていった和傘作りの歴史について学んだ後、次に、「これからの和傘と手仕事の行方は?」ということで和傘職人である高橋美紀さんに、その製造過程や和傘ならではの構造についてお話を伺いました。
和傘作りは一つ一つの工程がとても複雑で、それぞれに専門的な職人技が必要でした。そのため和傘の骨を作る竹屋、エゴノキからロクロを作るロクロ屋、親骨と小骨を一本一本組立てて糸でつなぐつなぎ屋、紙を貼る貼り屋など、それぞれの過程が細分化された熟練職人による分業によるものです。一本の和傘が完成するまでに数十人の職人が携わることもあるそうです。
実際に、たくさん和傘の実物も見せていただきました。一本の骨を二つに割いて、先のほうでまたつなぐという繊細な細工が施されている桔梗骨、骨が54本あり、しっかりした傘なのに柄が竹でできているため軽い細五四、祇園祭用の番傘などそれぞれの特徴とともにご紹介いただきました。かがり糸が施され、何十本もの骨組が整然と等間隔に広がる繊細な細工、色鮮やかに染められた和紙。たくさんの人の思いと技が込められた岐阜の美しい和傘のお話に、気が付けば夢中になって聞き入っていました。
しかし、このように多くの人の思いと技に支えられ、発展してきた岐阜の和傘ですが、現在は、様々な課題を抱えています。まず一つは、熟練職人の高齢化と後継者の不足。特に、ロクロという傘の中心になる木製部品を作る木工所は、全国で岐阜の岐南町にただ一軒あるばかり。骨職人も岐阜に2人のみ。高橋さんのような、これからの和傘づくりを担う若手は岐阜で10名ほどしかいないのが現状です。
また、ロクロの原材料であるエゴノキの調達が困難になっていることも、大きな課題です。いくら後継者が見つかり、伝統が受け継がれていったとしても原材料が手に入らなくなれば、和傘を作ることはできません。エゴノキはまたの名をロクロ木とも言い、粘り強い繊維を持ち、細かく裂いても割れないという特徴があって、ほかの木では代用がきかないそうです。エゴノキは一般家庭の庭木にも使われるなど、特別珍しい木ではないのですが、工芸品の材料にするには厳しい条件があり、その条件にあうだけのものを確保するのは至難の業でした。
そこで、もう一人のゲスト、久津輪雅さんが立ち上げられたのが、"エゴノキ・プロジェクト"です。久津輪さんの呼びかけに、久津輪さんが教員をされている岐阜県立森林文化アカデミーの教員と学生、地元の林業に携わる人、またSNSなどを通じて老舗和傘店の関係者、全国の和傘ファンなども集まりました。エゴノキの伐採と、木の切り株から新しい芽を出させるための森林の更新、新たな伐採場所の開拓などの取り組みをしていく中で、持続可能な森林をめざしています。
後継者不足やエゴノキの不足など様々な困難を抱えながらも、和傘作りには多くの希望もあります。
全国で唯一のロクロ職人のところへ、東京での仕事を辞めて弟子入りされた方がいること。長良川流域で作られてきた長良川プロダクトを販売するセレクトショップ、長良川デパート湊町店では和傘を手に取り、購入していく人の多くは、20代30代の若者であること。エゴノキ・プロジェクトにたくさんの人が関わり、伝統を守ろうとしていること。たくさんの人の手により大切に、確かに、受け継がれている伝統がそこにはありました。
今回のおとなの夜学にご参加いただいた方の中にも、「和傘がほしくなりました。」「エゴノキ・プロジェクト行きます!」などの声がアンケートから多数みられました。これからも、図書館として岐阜のまちがはぐくんできた文化や歴史を発信していきたいです。
次回のおとなの夜学は10月27日(木)。テーマは「岐阜の発酵をデザインする -鮎とたまりと発酵トーク-」です。次回もたくさんの方のご参加をお待ちしています!