10月27日(木)、第3回 おとなの夜学を開催しました。昨年からスタートしたこのイベントは、私たちの暮らす岐阜のまちがこれまで育んできた文化や歴史を図書館から発信しよう、というものです。岐阜ならではの異色な人々が集まり、「岐阜にいながら知らなかった岐阜のこと」を、対談やパネルディスカッション形式で語ります。
第3回となる今回のテーマは、岐阜の発酵をデザインする-鮎とたまりと発酵トーク-。ゲストは発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、泉屋物産店5代目の泉善七さん、山川醸造株式会社3代目の山川晃生さん。小倉さんは微生物研究家とデザイナーの二足のわらじで活動をされているユニークな方です。
発酵食は人類が培ってきた食品の保存法であり、また地域独自の味覚を作り上げてきた地域食文化の核に位置づけられるものです。岐阜にも鮎の熟れ鮨、たまり醤油など地域独自の発酵食品を作ってきた、泉さんや山川さんのような達人がいます。トークセッション当日の昼に泉さんと山川さんのお店の見学に行っておられた小倉さんがその奥深さと岐阜らしさを独特の視点で引き出し、3人の専門家による、この地ならではの発酵トークが繰り広げられました。
九州や東海地方は特に、不思議な糀文化を持っているそうです。山川さんによると、大豆と小麦の割合が半々の濃口醤油に対して東海地方で作られるたまり醤油はそのほとんどが大豆からできています。大豆に含まれるたんぱく質は分解されうまみのもとになりますが、通常の醤油よりも大豆の多いたまり醤油は、うまみ成分が非常に高いのが特徴です。また、水の割合も通常の醤油よりも少なく、これがたまり独特のとろりとしたコクになるとのこと。
泉さんは鮎料理の専門店を川原町屋で営まれ、昔ながらの郷土の味を残していくために鮎のリエットや鮎のピザなど創意工夫を重ねられ、新しいものをうみだしてこられました。熟れ鮨と魚醤について、その原点でもあるカンボジアやラオスへ視察に行ってきた際のお話も交えつつ、お話しくださいました。
熟れ鮨というと日本では滋賀の鮒鮨がスタンダードですが、それを鮎でやろうとされたのが泉さんです。鮒ずしはもともとふなのにおいが強く、熟れ鮨になるとその香りはもっと強烈ですが、鮎で熟れ鮨を作ると、確かに発酵しているときのにおいはあるけれど、それはあくまで無精臭で、そのかおりはとてもエレガントともいえるものだそうです。また、鮎にはとれた川の味がするように感じる面白さもあり、くさみがない発酵食品として、岐阜にたまりの文化が浸透していきました。
地域の食文化を守っていくために、新しいものを生み出す工夫、そうして生み出されたものが新たな伝統、岐阜ならではの「うまみ」となっていく様子を目の当たりにしたように思います。小倉さんが当日はファシリテーターを務めてくださいましたが、山川さん、泉さんのお話を心から「おもしろい!聞きたい!」と感じながら話されているのがよくわかり、私たちも3人のお話をワクワクした気持ちで夢中になりながら聞くことができました。
トークの最後にはカンボジアのトゥクトレイと鮎の魚醤の味比べ、鮎の熟れクリームリエットや醤油のポップコーンの試食を参加者全員で楽しみ、興味深いお話だけでなく、職人が創意工夫の中で生み出したおいしい岐阜を味わうこともできました。
アンケートでも「堅苦しくない、それでいてアカデミックな話が聞けて良かった。」「地元の料理を食べてみたいと強く思った」などの感想があり、好評のようでした。
次回のおとなの夜学は11月14日(月)。テーマは岐阜市不思議巡り-都市伝説と神話の現場から-。また一風変わった岐阜を知るチャンスになるかと思います。次回もたくさんの方のご参加をお待ちしています。