「秋の読書推進トークイベント 人生を切り拓く」を開催しました!

  • 2021年12月 1日

 11月23日(火)、勤労感謝の日に俳優のサヘル・ローズさんをお迎えして、秋の読書推進トークイベント、「人生を切り拓く」を開催しました。困難とともに在りながら今を生きるサヘルさんの体験と、そこから彼女が見出してきた「人生の切り拓き方」についてお話をうかがいました。司会の紹介でサヘルさんが登場されるとパッとその場が華やぎ、明るくなります。華やかな印象のサヘルさんが語り始めたお話は、想像できないほど過酷なものもありましたが、彼女の優しい語り口に会場内は終始なごやかな雰囲気に包まれていました。

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○サヘルさんの半生

 7歳の時の養母との出会い、そしてその出会いによってもう一度「生まれた」ように感じたこと。日本に来てから中東の国々へのネガティブな印象のためにいじめを受けたこと。そして、自殺を決意した日にお母さんと交わした言葉。その半生は想像を絶するものでしたが、サヘルさんは淡々と、ひとつひとつのエピソードを丁寧に、時にユーモアを交えながら優しく語られる姿が印象的でした。
 トーク中はサヘルさんが自らのことを語りながら、常に、観客としてお話を聴いている私たちひとりひとりの「辛さ」にやさしく寄り添ってくださっているように感じていました。人は弱いもの。「笑顔」という名の"仮面"、「大丈夫」という名の"仮面"をつけながら日々を生きているだけで頑張っているのだから、強くならなくていいのだという言葉に勇気づけられた方はたくさんいたのではないでしょうか。また、サヘルさんの著書、「あなたと、わたし」という詩集に、「下を向いて歩く」ことについて書かれたものがあります。サヘルさんは、「上を向いて歩こう」「前を向こう」とよく言うけれど、それってしんどいよなあ、と感じていた時期があったそうです。そんなとき、下をふと見ると自分の影があり、それが生きている実感につながった。苦しい場所で耐えなくてもいい、自分に合う靴を見つけて下を向き、地に足をつけ歩いていけばいい、といわれ心が軽くなりました。
 幼少期より図書館っ子で、本は時に自分の感情の受け皿になるものであり、本がいつも自分を見つけてくれていたように感じていた、本や図書館は自分にとって大切な存在だったと語る、サヘルさん。そうやって本を読んで身に着けてきた言葉は人を傷つけることも、殺すこともできる。だから投げ捨てるのではなく、大切に渡していかなければとおっしゃいます。そんなサヘルさんの言葉だから、すっと胸に入ってきてじんわりとしみわたるのだなと感じました。
 
○おせっかいについて
 ひとは一人で生きることはできませんが、なかなか自分の辛さや弱い部分というのは人に見せるのが難しいものです。サヘルさんも、いじめられていたときや生活が苦しかったとき、「辛いから助けてほしい」とはなかなか言えなかったそうです。お母さんにすら、「勉強ができて友達がいて学校が楽しいサヘルちゃん」を演じていた、と語られました。子どもはSOSを出せません、お子さんがいる方、子どもとかかわる機会がある方は子どもの様子がいつもと違うなと思われたら、「どうしたの?」と声をかけ、彼らの目を見てあげてください。誰かの目に映ることで、人は初めて生きることができます、どうぞ"おせっかい"をしてあげてください、と強いメッセージをくださいました。日本には他人に気配りをしたり、相手を敬う気持ちをもつ余白がある、それはとても素晴らしいことだとサヘルさんはいいます。かつてと比べるとご近所づきあいなども少なくなって他人に干渉することはよくないことではないかなと思ってしまうことがあります。また、なんでも自分で解決しなくちゃ、私が頑張らなくちゃと考えがちで、時間ができたらついスマホに目を落としてしまいますが、その"余白"をみんなが少しずつ互いを思いやる「おせっかい」に使えたら、よいのかなと感じました。

○「支援」すること
 ご自身がいまライフワークとして取り組まれている活動についてもお話しくださいました。その中で、「支援」に対する考え方が印象的でした。私たちは、「支援する」というとき、金銭的な支援や、モノを渡すことで支援しようと考えがちです。でも、お金はなくなればまた貧しい元の生活に戻ってしまう。そういった一時しのぎの支援ではなく、これからその人が長い人生を「生きていく」ための支援が必要だと語られました。それは学び方や働き方、自身で人生の舵を取る方法を伝えること。支援者が去った後もその人が自ら道を切り開いていけるようにしなければならないと話されたのです。そして、私たちがすぐにでも始めることのできる支援としては、「知る」ことがあります。「知らないこと」は悪いことではないけれど、「知ろうとしないこと」はよくない。今回サヘルさんが「忘れ去られがちなひとたちの姿」や中東の国の歴史を代弁してくださって初めて知ったことがたくさんあり、まずは私も関心をもつことから始めたいと感じました。
 また、「自分の人生の舵を切っているのは自分」だから、ご自身も自分のやりたいことやかなえたい夢は必ず口に出すようにしているそうです。言葉にだすことで誰かに伝っていく、かなわないこともあるけれどアクションを起こした自分に誇りを持つことができる、自分を信じることが自分の土台を作っていく、という言葉にサヘルさんの生き方が投影されているような気がしました。

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 サヘルさんの、「サヘル・ローズ」というお名前は孤児院から新しい家族のもとへいってからつけられたそうですが、「砂漠の中のバラ」という意味だそうです。その名前のように凛とした彼女の生き方に魅了された濃密な時間でした。観覧された方からも、サヘルさんの生き方や言葉に感銘を受けられ勇気づけられたという声がたくさんアンケートに残されていて、このようなイベントを開催できたことを図書館としてもうれしく思います。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

 また、図書館では年内いっぱい、サヘルさんが日々発信されているメッセージから感じた、「あなた」へ伝えたいメッセージを抱えた本を展示グローブにて展示しています。「自分」ってなんなのか、「普通」ってなんなのか、年末の慌ただしい時期だからこそ少し立ち止まって振り返るきっかけになればと思っています。ぜひそちらもご注目ください。