読書推進トークイベント『もうあかん日々の先に見えたもの』

  • 2023年11月20日

 11月3日(金・祝)に、『もうあかんわ日記』『家族だから愛したのではなく愛したのが家族だった』など、家族をテーマにしたエッセイで話題の作家、岸田奈美さんをお招きして読書推進トークイベント『もうあかん日々の先に見えたもの』を開催しました。

 父親を早くに亡くされ、母親は病気で車いす生活に、そして弟はダウン症、と普通なら一生に一度あるかないか、というような"もうあかんわ"と言いたくなることが立て続けにおこる人生だったという岸田奈美さん。イベントではあたたかい家族の笑顔の写真とともに岸田さんの半生を振り返りながら軽快なトークが繰り広げられました。
 まだ一般家庭でのパソコンの普及率が高くなかった子ども時代にお父さんに与えられたiMacを使って8歳からネットの世界に親しみ「書いて想いを表現すること」の魅力にはまっていったこと、そのお父さんと大喧嘩したまま、死別してしまったこと、障害を持ったお母さんが生きていてよかったと思える世界を作りたいと、大学時代に仲間と起業したこと、ミャンマーやニューヨークを訪問した時に肌で感じた障害者への対応の違い...悲しいお話も大変なお話もありましたが岸田さんの口から出る言葉たちはユーモアたっぷり。何度も会場からは笑いが起こり終始あたたかい空気に包まれていました。
 岸田さんのご家族はグループホームなども駆使しながら現在、『戦略的一家離散』をしているそうです。自立というのは何でもかんでも自分で抱えて自分でやることではなく、頼れる先を増やすこと、家族を愛するために、愛することのできる距離感をはかることが大切なのだという言葉が印象的でした。

 図書館で今回のようなトークイベントをされるのが初めての経験だったという岸田さん。ご自身が『わたしたちのトビアス』というダウン症の兄弟について書かれた絵本に自分の思っていることを代弁してもらえた思いだったという経験を通して、「本という誰かの書いた言葉に自分の言いたいことを語ってもらうことで、救われることがある、自分もそんなふうに誰かの心が軽くなるような言葉が書けたら」と語ってくださいました。

 トークのあとの質問コーナーでは、次々に質問がされ、そのひとつひとつに丁寧に言葉を選びながら答えられる姿が印象的でした。その一部をご紹介します。

Q.もうちょっと、日本人がひとに優しくなるためには、何が必要でしょうか?

A.『ま』が大事。「ま、そういうこともある」「ま、あの人もなんかあったんやろう」など『ま』をつけることで少し余裕を持つことができる。人の事情を想像できる自分でいたいですね。

Q.岸田さん姉弟と同様、健常のお姉ちゃんとダウン症の弟という構成の子どもがいる。どんなふうに親として接してあげたらいいか、兄弟としてどんな風にしてほしかったか。

A.自分は姉として、以前に人として愛される存在だということだけ伝えてあげたらそれだけでいいと思う。私も「お姉ちゃんである前に奈美ちゃんやからね」と両親から言われて育った。愛された人は愛することができると思うので、そんなふうにお母さんが子どもたちのことを考えている時点で、もう大丈夫です。

  イベント後、受付でたくさんの方に「素敵な企画をありがとうございました。」と声をかけていただきました。岸田さんのお話がたくさんの人の心に届き明るく照らしてくださったようなイベントになったような気がします。また、岸田さんはイベント終了後は館内を時間をかけて見学してくださり、その感想や岐阜への思いをXに投稿してくださいました。岸田さんの投稿をきっかけに岐阜市立図書館を訪れてくださったり興味を持ってくださったりする方が増えるのではないかなとうれしく思います。

岸田さん、そしてイベントにご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。
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